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好物
 婆さんが良く言う、「親も江戸っ子かどうかは、“せんべ”を食べさせればわかるよ。固い“せんべ”の意味がわかるかわからないかだよ。」という言葉は、育ちの悪い東京下町生まれというレッテルを誇りにできる力だ。

 戦争で焼け出されて小学校中退という婆さんが、ことあるごとに食べさせてくれたのが、芋ようかん(もしくは草だんご)、せんべ、あんみつ、下町3種。なかでも“せんべ”に対する思い入れというのは、子供の頃の憧憬と相まって麻薬のように体に刷り込まれている。その麻薬的作用を引き起こす“せんべ”であるが、まずはド定番の入山煎餅と、その一門を説明しなくてはならない。あのこげた(人によっては焦げすぎた)匂いを嗅ぐだけで覚醒できてしまう、いつまでも匂っていて鼻に乗っけていると、お袋に怒られるという“せんべ”である。しかしいつの頃だったかは定かではないが、この“せんべ”について記憶に残るのは、おいしさではなく、婆さんが言っていた「先代が管理しなくなって云々・・。」という言葉になってしまった。俺様がまだ魂入りたてのガキの頃だったか、婆さんが俺様の為に浅草で買って来てくれた“せんべ”を一口だけかじって食べなかったことがある。その時感じた感覚は今でも鮮明で、決して忘れることができない。それまであった噛み応えというか、粒子一つ一つが細かくなっていく過程がボヤけ、簡単に言うと、生地が柔らかくなってしまったと感じたのだ。ナウシカが砂の欠片をひらってパキーンみたいな、噛み応えが無くなった瞬間である。今ではその変化も受け入れてはいるが、それまで婆さん、お袋が愛した“せんべ”の神様の御威光は、魂の注入と共にキレイサッパリ掻き消えてしまった。

 今では、実家へ叔父が送ってくれるお歳暮こそが、我一族“せんべ”信仰の御威光である。それは今だ消えない、松葉薫る入山の御威光でもある、ということだけは言っておきたい。

東京の焼け野原の地平線は、丁度浅草あたりだったんだと。
by b3plus | 2005-02-20 00:57 | 駄文
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