過去に数年、彫刻や映像表現を学ぶ為、それぞれ高い学費を払って学校に通っておりました。
今も昔も変わりませんが、こういった学校では講師として、その時々で名の売れている表現者や、大御所を集め、自慢話を聞くというのも授業のヒトツでした。そんな繰り返しで退屈な、時間の浪費ともとれる内容ばかり、それなりに身になる話はしてもらえるのですが、俺様の意見としては、作品を作らせろ、それを評価してくれ、アドバイスができねーなら金返せでしたので、そういった内容には飽き飽きしていました。
そんな中、弟子を引き連れたクソエッラソーな爺様が講師としてやってきました。弟子がゾロゾロ(俺様の親父よりもはるかに年上の弟子をアゴで使いよる)、着ているモノも気を使ってないようでいて、実はめちゃくちゃオシャレ。そんなイイ気な爺様の第一声が、「俺はどこそこの大学で教えているが、大学なんてもんは話ばかり聞くだけで実践できねー面白くもねー奴等の溜まり場だぜ。」などといきなりのケンカ腰です。生徒の皆様の心を引かせまくりです。特別誰に向かって吐いたわけでもネー文句でしたが、下町育ちの俺様は、空から何かが頭にやってきます。「てめー、クソジジイこの、俺様の作品見てから文句いえやこの。」と死にそうな老体を労わる言葉をかけます。するとそのクソジジイはニヤリと笑って「よし、今日の授業の発表はオメーがトリだ。トチルナヨ。」と。こんなケンカの売られ方は初めてでしたので、ヤッテヤローじゃねーかと、いっちょ腰抜かさしたろか、と思案するのでした。
クソジジイの提案した授業内容は、A3コピー用紙一枚を使って似顔絵(2D・3D問わず)を作り、最後にその作品を手に持ち、ビデオカメラに向かえというものでした。みんな一様に真剣にマジメに製作に入ります。しかしクソジジイは、「おい、オメー、なんかスポーツやってんのか?」やら「出身はどこだ。」やら、「旅をして何を感じる?」だ、ひたすら話し掛けてきます。しまいには、「俺はあのイルカ野郎の映画を撮ったことがあるんだがな、あいつの書く絵はどうしようもねーが、イルカに関しちゃ本物だ。アイツがいると本当にイルカが寄ってくるんだ、そりゃ近くにいないはずなのに、必ずヤツのところへやってくるんだ。」などと昔話だか、自慢話だかわからない面白い長話をしてくれます。やたらオシャベリ、しかも大声で。そして話が絶妙に上手い。まさに縁側に座る爺様ですね。「で、クライマー、おめー作品はどうすんだ?」結局、製作時間一杯話し込み、いつの間にかジジイ、クライマーと呼び合うようになっていました。が、机の上には、手のついていないA3コピー用紙が一枚。「は?俺様が何も考えないで、ホッておいたとでも?ふざけんなよ。」
結果から言えば、へん、鼻―あかしてやったわ、てな感じでして、「てめー、コノヤローやりやがったな、もう一回やれって言ってもできねーだろうな。」とそれまでずっと黙っていたクソジジイに、いわしたったことに満足するのでした。ケンカは俺様の勝ちだと。そして授業終了後、「失敗したらどーするつもりだった?」とクソジジイに聞かれ、「失敗前提で作品を創るヤツがいんのか?」と聞き返しました。すると「暇ができたら俺の巣に来い。飯くらい食わしてやる。六本木だ。」なんて、しおらしいことをノタマいます。しかしよく考えてみると、製作時間中ずっと、しつこくしつこく話し掛けてきたことといい、心配したような言葉を投げかけないことといい、そろそろお前だぞ、なんてプッシュしてくることを考えると、俺様が何かを狙っていることを見透かしていたのではないか?と思えるわけです。ケンカに勝ったつもりが、監督・俳優の関係よろしく、より良い作品になるよう、手の上で転がされていたってわけで、全てはクソジジイの壮大な作品に組み込まれていたってことでした。
帰り際、「次も勝負してやるぞ。」と楽しそうなジジイの顔は死んでも忘れん。
つづく